男性の美容を真面目に考える⑨
〜皮膚から蒸散する水分量に関する男女差〜

■皮膚から蒸散する水分量の指標

皮膚のバリア機能を評価する指標の一つに、経表皮水分蒸散量(TEWL:Trans Epidermal Water Loss)があります。経表皮水分蒸散量(TEWL)とは、皮膚の角層を通って蒸散する僅かな水分量のことです。すなわち、からだの水分がどれだけ外に逃げているかを測定した数値です。

皮膚の重要な役割の一つに、角質のバリア機能があります。この機能が破綻すると、皮膚の内側からの水分の蒸散量が増え、皮膚の保湿能が低下します。その結果、皮膚のハリが失われ、乾燥や小シワ、シミなどの肌老化の原因になります。

肌の水分量に関しては下記をご参照下さい。

■経表皮水分蒸散量(TEWL)とは

体内から角質を通して自然と水分が蒸散することは、経表皮水分喪失または不感蒸泄などと呼ばれ、単位面積・時間あたりの水分の重量、すなわち、g/(m2・h)で表され、これが経表皮水分蒸散量(TEWL)です。これは体温上昇や運動、精神的刺激などによって汗腺から分泌される汗とは区別され、正常な状態でも少量が測定されます。一方で、上述した通り、経表皮水分蒸散量(TEWL)は肌の角質のバリア機能の指標なので、例えば、肌荒れをすると増加します。

■経表皮水分蒸散量(TEWL)の測定方法

経表皮水分蒸散量(TEWL)は皮膚にプローブを密着させて測定します。しかし、非常に微小な水分の蒸散量を測定するので、周りの環境や皮膚の状態から影響を受けやすいです。また、皮膚以外の生理的条件からも影響を受ける為、測定中に計測値が変化する場合があり、変動幅が一定の範囲になった時に測定する必要があります。

そして、恒温・恒湿・無風の条件で、かつ、発汗を起さない身体条件を整えることが重要です。我々が測定する場合は、測定環境への順化のため、測定部位を露出させて状態で一定時間安静にしてもらい、その後に測定をしてもらっています。

■経表皮水分蒸散量(TEWL)の男女の違いに関して

Jacobiら(2005) やWilhelmら(1991)の研究では、男女ともに、経表皮水分蒸散量(以下、TEWL)に有意な差は認めないと報告しています。

さらに、Tupkerら(1989)やLammintaustaら(1987)も、男女間でTEWLの違いを証明できませんでした。また、テープによる皮膚(角質)のストリッピングテストにおいて、角質バリアを破壊する為に必要なテープの剥ぎ取りの回数も、バリア機能の回復率も、女性と男性の間に有意な差はありませんでした。

一方で、Luebberdingら (2013)は、50歳以下では、部位に関係なく、男性のTEWLが同じ年齢の女性よりも有意に低く、前腕を除くすべての部位において、加齢とともに、男女の差が減少したと報告しています。また、50〜60歳では、額・頬・首のTEWLは、男性の方が女性よりも高いと報告されています。そして、ほとんどの部位において、TEWLは横ばいか、あるいは年齢とともに増加していました。

日本人を対象とした水越らの報告では、男性の場合、頬部、鼻部、上腕内側のTEWLは年齢との相関関係を認めませんでしたが、顎では年齢と共にTEWLが上昇する傾向を認めました。これは、男性の場合、髭剃りの習慣により、角質バリアがダメージを受けているためでしょう。また、男性の肌は女性と比較し、TEWLが約2.3倍高いと示しています。そして彼らは、TEWLが皮脂量と正の相関関係があることに着目し、男性の皮脂の脂肪酸量の増加が細胞間脂質構造に影響を及ぼし、角質のバリア機能を悪化させた結果、TEWLが上昇したと考察しています。

TEWLの男女差に関しては、いずれの報告もありますが、我々の臨床経験からは、日常的に化粧品(界面活性剤)を使用している女性の方が、角質のバリア機能が破綻し、肌が乾燥している印象です。性差よりも、個人の生活習慣によるところが大きそうです。

■まとめ

  • 経表皮水分蒸散量(TEWL)とは、角質のバリア機能の指標であり、数値が高いほど角質バリア機能の破綻を意味しており、体内からの水分の蒸散量が多く、肌の保湿能が低下する。
  • 経表皮水分蒸散量(TEWL)は周りの環境や皮膚の状態から影響を受けやすく、測定にムラが生じやすい。
  • TEWLの男女差は報告によって異なるため、正確な結論はない。人種、文化、生活習慣(化粧や髭剃りなど)、測定方法、環境、研究者など、多因子の影響を受けやすい。
  • 男性の場合、髭剃りの習慣により顎の角質バリア機能が破綻することで、TEWLが高くなる傾向がある。

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